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第十一話 ひととき、宴①

last update Last Updated: 2025-06-25 17:31:00

 合格した六人は、これから拠点となる屋敷へと連れていかれた。

 とても広く大きなお屋敷に皆が目を丸くする。

 大きな門をくぐると、そこには広大な敷地が広がっており、天気のいい日は外で稽古ができそうな程だった。

 奥の方には立派な玄関が構え、その向こうの大きなお屋敷へと続いている。

 屋敷の大きさから、中も相当広いことが予想できた。

 試合会場となっていたところとかなり似ている。もしかして、提供している人物は同じなのかもしれない。

 距離も先ほどの所から、そう遠くはなかった。

 こんな豪華な屋敷に住まわせてもらえるのかと、驚きと喜びがないまぜになった瞳で皆はお屋敷を眺める。

「ここは、私の主である黒川様に用意してもらった。

 黒川様はこの隊を作られたお方だ。

 皆が訓練に集中できるようにと考え、配慮されたのだ。

 いずれ会う機会もあるかもしれないから、心しておくように」

「はい!」

 伊藤を先頭に、一同は整列し屋敷の中へ入っていく。

 屋敷内を回りながら、伊藤がそれぞれの部屋を案内をしていった。

 一通り説明し終えると、伊藤は皆に向き直った。

「これからここで、皆には寝食を共にしてもらう。お互い信頼関係を築き、連携を大切にするように。

 また、稽古や訓練に励み、さらに剣術の腕を磨くように。そして、黒川様の命が下ったときは、君たちの出番だ。

 それまでは、ここで精進すること、以上!」

「はい!」

 皆の緊張感が漂う中、伊藤の表情が緩んだ。

「……まあ、今日は合格祝いと親睦会も兼ねて、宴会を開こうと思っている。それまで自由時間だ。

 今日はご苦労だった、解散!」

 伊藤はそれだけ言うと、皆に背を向け去っていく。

 残された者たちは互いに顔を見合わせた。

「宴会だってさ、楽しみだな」

「俺疲れたから寝てくるわ」

「僕は町へ行ってくる」

 それぞれの自己紹介が済んだあと、皆思い思いに散らばっていった。

 宇随は雛を誘おうとしたが、

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